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  • 執筆者の写真Takoh

イヤートレーニング

音楽学校に在籍中だったか、卒業してすぐの頃か、

ギター科の先生からクリスマス営業演奏の仕事を頂いた。



ピアノ科の先生がピアノ、ギター科の僕の担当の先生がベースを弾き、

僕がギターを弾くというドラムレスのトリオ編成



楽曲はジャズからポップス、クリスマスソングまで幅広くあったのを覚えている。



ギャラをいただく仕事は当時からいくつかやっていたが、

先生からのお誘いの仕事というのは別の緊張感があった。




ピアノがリードしながら、ギターとベースが伴奏や時にソロを入れるようなスタイルだったが、僕は色々な場面ですぐにロスト(曲のどこを演奏しているかわからなくなる事)してしまって、その都度ベースを担当していた僕の先生が


「今ここだよ。落ち着いて音を聴けばどこやっているかわかるから」


と後ろから声をかけてくれた。



後になって聞くと、音楽の現場で仕事するならこれくらいついて来ないとだよ。

という無言の愛の鞭だったようだ。



散々な結果に終わったあと、僕は自分の実力不足、経験不足について深く考えた。

派手なテクニックを要することの無い営業演奏で、僕に足りなかったのはやはり「音楽力の欠如」だったと言える。



経験不足については、仕事を増やして現場に立っていかない事には解決しないので、そこに準ずる音楽力、例えば各現場における楽器のセッティングだったり、メンバーやお客さんとの空気感による自分のプレイの変化や感情の変化など、は置いておく。



上記の経験で僕が顕著に実力不足を感じたのは、「聴く」という事だ。

演奏中にロストするというのは、周りのプレイヤーの音が聴けていない。実際には音は聞こえているが、何の音なのか、何の和音なのか、何分音符なのか、そういうものを聴きとる力が不足していると考えた。

テクニックばかり磨こうとしていた僕は、ここで初めて、楽音を聴き取る「聴音」を鍛える必要があると思い至った。



はじめに」で書いたように耳コピが大変だと感じていたのもこれが要因であったと思う。



それまで僕は、例えばアート・ペッパーやスタン・ゲッツなどのサックス奏者のソロなどを耳コピしようと試みていたが、そのような単音弾きよりも、コード進行の耳コピをするところから始めようと考えた。




まずJ–POPのコード進行をコピーしようと考え、様々な楽曲の耳コピを始めた。

知っている曲から、知らない曲まで楽器を持たずに音を聴く。コードのルート音を弾く事が多いベースを聴こうと努力したが、当時の僕はベースの音域が思うように聴き取れず、それならいっそ自分でベースをやれば聴こえるようになるだろうとベースを買って練習したりした。



そんなこんなをやりながら音感が向上しているのかしていないのかわからずくすぶっていた所に、アカデミックにイヤートレーニングのレッスンをやっている先生を紹介して頂いた。




この時の先生(橋爪亮督氏)との出会い、そしてこのメソッドが僕の音楽人生において決定的に大きな変化をもたらしたと思う。



先生には作曲の方法論やハーモニー理論など、イヤートレーニングのメソッドとは違ったカテゴリーのレッスンも受けながら、足掛け4年ほどの歳月をかけてこのメソッドを修了した。

時には、ミュージシャンとして生きて行くための心構えや、レコーディングの現場でのノウハウや、確定申告の仕方などもレッスンで教わった。文字通り、音楽家として自立する方法を教えてくれた恩人だ。



この某音楽大学のメソッドをもとにしたトレーニングは、リズミックトレーニング、メロディックトレーニング、ハーモニックトレーニング、その他いくつかの項目に分かれていて、総合的に音感を育むものだった。



音感と聴くと、音の高低を判別する能力を思い浮かべる人も多いだろう。



しかし実際は、リズム感、ハーモニー感などと密接に絡み合ってそれらが一体となったものを総合して音感と呼ぶものだというのも、このメソッドを通してわかった。



興味深い例を挙げると、僕の生徒に幼少の頃からピアノをやっている絶対音感を持っている方がいるが、その生徒は音は聴き取ることができるが、ではJ–POPのコード進行がわかるかというと、それはわからなかった。



これはハーモニーの感覚の欠如が原因と考えられる。そこでハーモニーの知識と調性感などをレッスンしていくと、コード進行のコピーができるようになっていった。




この約4年間のレッスンでは、僕はギターを持って行ったのは数回しかない。(そもそも橋爪氏の専門はサックス)

身体で音やリズムを感じ、それらを頭に鳴らすトレーニングなので、楽器でのアウトプットやテクニックよりも前段階のものなのだ。

数あるトレーニングや教本は、後者のアウトプットの段階から入るものがほとんどなので、決して無駄な事ではないが、土壌がしっかりしていない所に花を咲かそうとするようなものが多いように思う。


また初心者の方で、楽器を持たないトレーニングというのに抵抗を感じ、答えを急ぐ、すぐ花を咲かせたいと思う方も多いのも事実なので、そういう教本が多いのも商業的に見れば当然のことだろう。




僕が最も音楽的に上達したと感じるメソッド聞かれたら、真っ先にこのイヤートレーニングと答えるだろう。

前述したJ–POPなどのコード進行なら、ほとんどが聴いているだけでわかるし、ハーモニーの知識をつけることで、それらの応用や分析もはるかに早くできるようになった。



その他にギターのテクニックの向上に関して問われれば、クラシックの古典、カルリ、カルカッシ、ソルのエチュード辺りが最も効果的かもしれない。その辺りはまたクラシックのカテゴリーで後述。




今では、イヤートレーニングのメソッドをもっとたくさんの人に広めて欲しいという事で、先生からお墨付きを頂き、僕の教室でも幅広くレッスンしている。



最も僕の教室では、趣味で嗜みたいという方や全くの初心者も多いので、そのような方音楽大学のメソッドは少し荷が重い所もあり、音符を読んだ事がない人でも始められるようにしている。



それでも効果は大きく、趣味のレベルを超えたようなモーダルインターチェンジやセカンダリードミナントなどに言及している方々も少なくない。

そのような方々が増えていけば、ジャズやコンテンポラリーな芸術音楽と言われるジャンルが、「musician's music(音楽家のための音楽)」のような呼ばれ方をしなくなって行くだろうし、そうなってほしいと考えている。





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